日産自動車が発表した2025年3月期第2四半期決算は、厳しい結果となりました。
売上高は前年同期比1.3%減の5兆9842億円、営業利益は90.2%減の329億円、純利益は93.5%減の192億円と大幅な減収減益という結果に。
グローバル販売台数も1.6%減の159.6万台と振るいませんでした。
この衝撃的な決算を受け、日産は大胆な再建策を打ち出しました。
固定費3000億円、変動費1000億円、合計5000億円のコスト削減計画を発表。
具体的には、グローバル生産能力の20%削減、9000人の人員削減、販売管理費の圧縮などを実施する方針です。
市場の反応は厳しく、決算発表後の日産株価は下落しました。
投資家やアナリストからは、競争力回復への道筋や電動化戦略の遅れに対する懸念の声が上がっています。
一方で、内田誠社長の報酬50%返上を含む経営陣の責任ある対応や、具体的な数値目標を伴う再建計画の発表は、一定の評価を得ています。
厳しい市場環境の中で、この大胆な計画が実を結ぶか、業界内外から注目が集まっています。
ポイント①
- 中国市場での新車販売不振、米国市場での収益悪化
- 販売費用の増加(インセンティブの積み増しなど)
- 在庫調整にかかわる費用の増加
- 研究開発費の増加、インフレの影響によるコスト増
- 台当たり収益の低さ
- 販売目標と実績の乖離
- タイムリーな人気モデル投入の遅れ
- 工場の低い稼働率による固定費増加
- 米国市場でのHV・PHV投入の遅れ
- 中国市場での地場系メーカーとの競争激化
- 取引先への下請法違反による影響
ポイント②
- 5000億円のコスト削減計画
- 固定費3000億円削減、変動費2000億円削減
- グローバル生産能力の20%削減
- 全世界で約9000人の人員削減
- 販売管理費の圧縮
- 内田誠社長の報酬50%返上を含む経営陣の報酬削減
- 新車投入計画の加速
- 2026年度までに30車種以上の新型車投入
- 電動化戦略の強化
- 2026年度までに電動車比率を40%に引き上げ
- 中国市場での事業再構築
- 合弁相手との関係見直し
- 現地EVメーカーとの提携検討
- 米国市場での競争力回復
- インセンティブ抑制と収益性改善
- サプライチェーンの最適化
- デジタル技術の活用による業務効率化
- アライアンス(ルノー、三菱)との協力関係強化
- ブランド価値向上への取り組み強化
決算の詳細
売上高、営業利益、純利益
日産自動車の2025年3月期第2四半期(2024年4〜9月期)の決算結果は以下の通りです。
- 売上高:5兆9842億円
- 営業利益:329億円
- 純利益:192億円
前年同期比での変化
前年同期と比較すると、以下のような変化が見られました。
- 売上高:1.3%減
- 営業利益:90.2%減
- 純利益:93.5%減
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 1株益 |
---|---|---|---|---|---|
2024年9月期 | 5,984,221 | 32,908 | 116,057 | 19,223 | 5.24 |
2024年6月期 | 2,998,395 | 995 | 65,128 | 28,562 | 7.77 |
2024年3月期 | 12,685,716 | 568,718 | 702,161 | 426,649 | 110.47 |
2023年12月期 | 9,171,406 | 478,375 | 540,123 | 325,354 | 83.45 |
2023年9月期 | 6,063,346 | 336,743 | 412,681 | 296,210 | 75.64 |
単位:百万円(1株当りの項目 単位:円)
地域別の業績
- 中国市場:
現地メーカーの新エネルギー車の急速な拡大により、日産を含む合弁メーカーが主戦場とするノンプレミアム市場が縮小。 - 米国市場:
在庫の削減や激化する販売競争に対応するための販売費用が増加し、収益を圧迫している。また、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車(PHEV)の需要急増に対応できず、苦戦を強いられている。 - その他の市場:
中国メーカーの輸出拡大により、東南アジア、中東、中南米などの市場でも影響が出始めている。全体として、特に米国と中国市場での苦戦が目立ち、グローバルでの販売減少につながっている。この状況を受けて、日産は大幅なコスト削減と事業構造の再構築を計画しる。
業績悪化の主な理由
原材料価格の高騰
原材料価格の高騰は、日産自動車の収益性に大きな影響を与えています。
特に以下の点が注目されます。
- 鉄鋼やアルミニウムなどの金属価格の上昇
- リチウムやニッケルなど、電気自動車用バッテリーの原材料価格の高騰
- これらのコスト増を製品価格に十分に転嫁できていない状況
原材料価格の上昇は、直接的に製造コストを押し上げ、利益率を圧迫しています。
半導体不足の影響
半導体不足は自動車業界全体に影響を与えていますが、日産も例外ではありません。
- 生産計画の遅延や調整を余儀なくされている
- 一部モデルの生産制限や納期の長期化
- 在庫管理の難しさによる追加コストの発生
これらの要因が、生産効率の低下と販売機会の損失につながっています。
為替変動の影響
為替相場の変動、特に円安傾向は、日産の業績に複雑な影響を与えています。
- 海外での売上高が円換算で増加する一方で、海外からの部品調達コストも上昇
- 特に、中国元高の影響で中国からの部品調達コストが増加
為替変動の影響を完全に相殺できておらず、全体としてはマイナスの影響が大きくなっています。
競争激化と販売不振
グローバル市場での競争激化と、それに伴う販売不振が業績悪化の大きな要因となっています。
- 中国市場での現地EVメーカーの急速な台頭
- 米国市場でのハイブリッド車・PHEVの需要増加に対応できていない
- 新興国市場での中国メーカーの攻勢
- 魅力的な新モデル投入の遅れによるブランド力の低下
- インセンティブ(販売奨励金)の増加による利益率の低下
これらの要因が複合的に作用し、日産の市場シェアの低下と収益性の悪化を招いています。
競争力回復のための抜本的な対策が急務となっています。
日産自動車の現在の課題
ブランド力の低下
日産自動車は近年、ブランド力の低下に直面しています。
- 魅力的な新モデル投入の遅れ
- 品質問題や認証不正問題による信頼性の低下
- 競合他社と比較して際立つ特徴や強みの不足
- マーケティング戦略の効果不足
これらの要因により、消費者の日産ブランドへの認識が弱まり、他ブランドへの乗り換えが増加しています。
ブランド力の回復は、日産の再建において最重要課題の一つです。
電動化への対応の遅れ
自動車業界全体が急速に電動化へシフトする中、日産の対応に遅れが見られます。
- EVモデルのラインナップ不足
- ハイブリッド車やPHEVの投入タイミングの遅れ
- バッテリー技術や充電インフラへの投資不足
- 電動化戦略の明確なビジョンや目標の不足
特に中国や欧州市場での電動化の遅れは、市場シェアの低下に直結しています。
迅速かつ効果的な電動化戦略の実行が急務です。
生産効率の問題
日産の生産効率には改善の余地があります。
- 工場の稼働率低下による固定費負担の増加
- グローバルでの生産能力過剰
- サプライチェーンの最適化不足
- 生産ラインの柔軟性不足
これらの問題は、コスト増加や市場の需要変化への対応遅れにつながっています。
生産システムの抜本的な見直しと効率化が必要です。
アライアンス(ルノー、三菱)との関係
ルノー、三菱とのアライアンスは、日産にとって重要な戦略的パートナーシップですが、課題も存在します。
- アライアンス内での役割分担の不明確さ
- 技術や部品の共有による独自性の喪失懸念
- 意思決定プロセスの複雑化
- 文化の違いによるコミュニケーション問題
アライアンスの強みを最大限に活かしつつ、日産の独自性と競争力を維持するバランスが求められています。
アライアンス戦略の再構築と明確化が、日産の再建において重要な要素となっています。
今後の展望と再建策
新型車の投入計画
日産自動車は、魅力的な新型車の投入を通じて市場シェアの回復を目指しています。
- 2026年度までに30車種以上の新型車を投入予定
- 主力セグメントでの競争力強化(例:新型「エクストレイル」)
- 地域特性に合わせたモデル開発(例:北米市場向けの大型SUV)
- デザイン性と技術革新の融合による差別化
この積極的な新型車投入計画により、ブランド力の向上と販売増加を図ります。
コスト削減策
日産は大規模なコスト削減計画を発表し、収益性の改善を目指しています。
- 5000億円の総コスト削減目標(固定費3000億円、変動費2000億円)
- グローバル生産能力の20%削減
- 全世界で約9000人の人員削減
- 販売管理費の圧縮と効率化
- サプライチェーンの最適化によるコスト削減
これらの施策により、経営体質の強化と利益率の改善を図ります。
電動化戦略の強化
日産は電動化への対応を加速し、市場ニーズに応える計画です。
- 2026年度までに電動車比率を40%に引き上げ
- 新型EVの開発と投入(例:コンパクトEVやクロスオーバーEV)
- ハイブリッド車とPHEVのラインナップ拡充
- バッテリー技術への投資強化
- 充電インフラの整備と拡充
電動化戦略の強化により、環境規制への対応と市場競争力の向上を目指します。
アライアンスの再構築
ルノー、三菱とのアライアンスを再構築し、シナジー効果を最大化する計画です。
- アライアンス内での役割分担の明確化
- 共通プラットフォームと技術の効率的な活用
- 地域別の戦略立案と実行の最適化
- 研究開発費の共同負担による効率化
- 各社の強みを活かした協力体制の構築
アライアンスの再構築により、グローバル市場での競争力強化と経営効率の向上を図ります。
これらの再建策を通じて、日産自動車は業績回復と持続可能な成長を目指しています。
しかし、その実現には経営陣のリーダーシップと従業員の努力、そして市場環境の変化への柔軟な対応が不可欠です。
今後の日産の動向に、業界内外から注目が集まっています。
アナリストの見解
市場専門家の意見
SMBC日興証券の牧一統アナリスト
「最近の販売不振を踏まえればサプライズともいえない結果」と指摘。
日産の課題はブランド力など本質的な問題にあるとの厳しい見方を示しています。
その他のアナリスト
中期経営計画で掲げた販売台数100万台上積みや利益率改善目標について、「高すぎる目標」と危惧する声が上がっていました。
北米市場でのハイブリッド車(HV)投入の遅れが、インセンティブ(販売奨励金)への依存度を高め、収益性悪化の一因となっているとの分析があります。
業界全体の見方
中国市場での現地メーカーの台頭や、北米市場での競争激化など、日産が直面している課題は業界全体の問題でもあるとの認識が示されています。
しかし、トヨタやホンダと比較して日産の業績悪化が顕著であることから、日産固有の構造的問題にも注目が集まっています。
株価への影響予測
日産自動車の業績下方修正と再建策発表を受けて、株価への影響は以下のように予測されています。
短期的な影響
発表直後の2024年11月8日の取引で、日産株は一時10%安の368.5円を付け、約4年ぶりの日中安値を記録しました。
この急落は、市場予想を大幅に下回る業績見通しへの失望売りが広がったためと分析されています。
中長期的な見通し
再建策の効果が現れるまでは、株価の低迷が続く可能性が高いと予測されています。
特に、9000人規模の人員削減や生産能力20%削減などの構造改革の進捗状況が、今後の株価動向に大きく影響すると見られています。
回復のポイント
北米市場でのHV投入や中国市場での競争力回復など、具体的な成果が見えてくれば、株価の回復も期待できるとの見方があります。
しかし、ブランド力の回復や収益性の改善には時間がかかると予想されており、株価の本格的な回復には相応の時間を要する可能性が高いとされています。
業界動向との連動
自動車業界全体の動向、特に電動化や自動運転技術の進展に日産がどう対応していくかが、中長期的な株価動向を左右する要因になると予測されています。
これらの見解を総合すると、日産自動車の株価は当面厳しい状況が続く可能性が高いものの、再建策の進捗や市場環境の変化によっては回復の余地もあると見られています。
投資家は、日産の構造改革の進展と業界全体の動向を注視する必要があるでしょう。
まとめ
短期的な見通し
日産自動車の短期的な見通しは厳しいと言わざるを得ません。
5000億円規模のコスト削減計画や9000人の人員削減など、大規模な構造改革の実施により、当面は業績の回復に時間を要すると予想されます。
特に、中国市場での競争激化や北米市場でのハイブリッド車投入の遅れなど、喫緊の課題への対応が急務となっています。
長期的な投資価値の検討
長期的な投資価値については、慎重に検討する必要があります。
日産の再建策が成功し、ブランド力の回復や電動化戦略の強化が実を結べば、投資価値は大きく向上する可能性があります。
しかし、自動車業界全体が大きな転換期にある中で、日産が競合他社に追いつき、さらに追い越せるかどうかは不透明です。
投資家は、日産の構造改革の進捗と業界動向を注視しつつ、長期的な視点で判断することが重要でしょう。
参考:
- https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2411/08/news121.html
- https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1637715.html
- https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-08/SMN58EDWLU6800