小売業界の巨人イオンが、厳しい業績に直面しています。
2024年3〜8月期の連結決算では、純利益が前年同期比76%減の54億円にまで落ち込みました。
この急激な業績悪化の背景には、人件費の増加、プライベートブランド商品の値下げ、そして消費者の購買行動の変化など、複数の要因が絡み合っています。
しかし、イオンはこの逆境を乗り越えるべく、新たな戦略を展開し始めています。
本記事では、イオンの業績悪化の詳細な理由を分析するとともに、同社が掲げる回復への道筋と将来の成長戦略について深く掘り下げていきます。
果たして、イオンは再び成長軌道に乗ることができるのでしょうか?
業界の動向や消費者ニーズの変化を踏まえながら、イオンの未来を探ります。
ポイント①
- 価格戦略による粗利率の悪化
- コスト増加(人件費、電気代、物流費など)
- GMS事業の不振
- 価格競争の激化
ポイント②
- プライベートブランド(PB)商品の値下げ戦略
- デジタル化の推進(AIシステムの導入など)
- 従業員の賃上げ
- GMS事業の立て直し
- コスト管理の強化
- デジタルとリアルの融合
- 海外事業の拡大
イオンの業績悪化の要因
価格戦略による粗利率の悪化
イオンは消費者の生活防衛意識の高まりに対応するため、プライベートブランド(PB)商品の値下げを実施しました。
3月までに累計88品目のPB商品の値下げを行い、売上高は増加しましたが、粗利率が低下しました。
この価格戦略により、営業総利益が低調となり、全体の利益を圧迫しました。
コスト増加(人件費、電気代、物流費など)
賃上げによる人件費の上昇が大きな要因となりました。
イオンは従業員の待遇改善を進めていますが、これが利益を圧迫しています。
電気代や物流費などの経費も増加しており、これらのコスト増を売上増で吸収できていません。
AI システムの導入など、デジタル投資によるコストも利益を押し下げる要因となっています。
GMS事業の不振
主力の総合スーパー(GMS)事業が特に不振で、営業損失82億6000万円を計上しました。これは前年同期より117億7800万円の減益です。
GMS事業は3年ぶりに赤字に転落し、イオンの業績全体に大きな影響を与えています。
消費者の購買行動の変化や、専門店との競争激化がGMS事業の不振の背景にあると考えられます。
価格競争の激化
小売業界全体で価格競争が激化しており、イオンも価格強化戦略をとらざるを得ない状況にあります。
原価上昇の中での価格競争は、イオンにとって厳しい経営環境を生み出しており、競合他社との価格競争により、利益率の維持が困難になっています。
これらの要因が複合的に作用し、イオンの2024年10月決算では、営業利益が前年同期比16.2%減の986億円となり、純利益も76.5%減の54億8800万円と大幅な減益となりました。
イオンは今後、事業構造の改革や新商品の投入、年末商戦での巻き返しなどを通じて業績回復を目指すとしています。
イオンの現在の取り組み
プライベートブランド(PB)商品の値下げ戦略
- イオンは「トップバリュ」ブランドの価格訴求型「ベストプライス」で値頃感を強化。
- 新商品350品を投入し、包装の見直し、物流の効率化、積載効率の改善、原材料価格が安定したタイミングでのコスト削減などにより値頃感を創出。
- "1円でも安く、1グラムでも多く"を志向し、量を減らさずに中身の改善を図る。
- 約100品の増量を実施し、27品目の値下げも予定。
- この戦略は、消費者の価格感度の高まりと食品需要の低迷に対応するもの。
デジタル化の推進(AIシステムの導入など)
- 「AIカカク」システムを導入し、適切な割引価格をAIが提示することで食品ロスを削減。
- 「AIオーダー」システムを導入し、需要予測と発注の最適化を図る。
- AIカカクは惣菜部門や日配品から畜産・水産部門へと適用範囲を拡大。
- AIオーダーは発注時間を平均で5割削減し、予測精度を最大40%改善。
- これらのシステムにより、ロス率の低減、在庫管理の改善、業務効率化を実現。
従業員の賃上げ
- イオンリテールは2024年春闘で、正社員の平均賃上げ(総額)を1万9751円(6.39%)、パートタイマーの時給を76.66円(7.02%)引き上げることで妥結。
- パートタイマーの賃上げは2年連続で7%超となり、約7万人が対象。
- 正社員の大卒初任給を1万円引き上げ、首都圏では26万円となった。
- イオンモールでも、正社員の平均賃上げ(総額)2万7196円(7.73%)、パートタイマーの時給83.5円(7.01%)の引き上げを実施。
業績回復に向けた今後の戦略
GMS事業の立て直し
- プライベートブランド(PB)商品の強化:
「トップバリュ」ブランドの「ベストプライス」シリーズで値頃感を強化し、約100品の増量や27品目の値下げを実施。 - 食品部門の強化:
生鮮食品の品揃えを拡充し、ネットスーパーでも生鮮食品の売上が約1.5倍に成長。 - 店舗改革:
不採算店舗の閉鎖や規模縮小、デジタル基幹店としての「イオン天王町ショッピングセンター」のような新しい店舗モデルの展開。
コスト管理の強化
- 人員配置の最適化:
本社から店舗への人員シフト。 - デジタル化によるコスト削減:
会議のオンライン化、セルフレジやレジゴーの導入による人件費削減。 - 経費削減:
本社本部経費21%減、店舗経費5%減を達成。 - AIシステムの活用:
「AIカカク」システムによる適切な割引価格設定、「AIオーダー」システムによる発注時間の平均5割削減と予測精度の最大40%改善。
デジタルとリアルの融合
- オムニチャネル戦略の強化:
ネットスーパーの拡大(185店舗で実施、178店舗で店頭ピックアップ対応)。 - アプリ開発:
グループ共通のIDを用いた顧客データの一元管理と、それに基づくパーソナライズされたサービス提供。 - デジタル売上高の拡大:
2026年度までにデジタル売上高1兆円達成を目標に設定。
海外事業の拡大
- ベトナムへの注力:
2026年2月期を最終期とする中期経営計画で海外50モール体制を目指し、特にベトナムに投資を集中。 - マルチフォーマット戦略:
ショッピングセンター、GMS、スーパーマーケット、コンビニ、専門店など多様な業態で展開。 - デジタル戦略:
ベトナムでのECライセンス取得とマーケットプレイス型ECの運営開始。 - 地方都市への展開:
大都市だけでなく、地方中核都市への積極的な出店。
これらの戦略を通じて、イオンは国内外での競争力強化と持続可能な成長を目指しています。
特に、デジタル技術の活用とアジア市場での展開が、今後の業績回復と成長の鍵となると考えられます。
業界動向と競合他社との比較
小売業界全体の課題
個人消費の低迷
物価上昇や実質賃金の伸び悩みにより、消費者の節約志向が強まっています。
特に食品や日用品などの生活必需品での価格競争が激化しています。
人手不足と人件費の上昇
少子高齢化による労働力不足が深刻化しています。
最低賃金の引き上げなどにより、人件費が増加傾向にあります。
デジタル化への対応
ECの台頭により、実店舗とオンラインの融合(オムニチャネル戦略)が求められています。
AI、IoTなどの新技術導入による業務効率化が課題となっています。
環境・社会問題への対応
プラスチック削減や食品ロス対策など、サステナビリティへの取り組みが重要になっています。
主要競合他社の状況
セブン&アイ・ホールディングス
コンビニエンスストア事業を中心に、スーパーやデパートなど多角的に展開しています。
北米市場での事業拡大に注力しており、海外売上高比率が高くなっています。
ユニー・ファミリーマートホールディングス
コンビニエンスストア事業と総合小売業を展開しています。
伊藤忠商事との資本提携により、商品開発や物流面での協力を強化しています。
ヤマダホールディングス
家電量販店を中心に、住宅事業なども展開しています。
ECとリアル店舗の融合や、サブスクリプションサービスの拡充に取り組んでいます。
ニトリホールディングス
家具・インテリア製品の製造小売業(SPA)モデルで成長を続けています。
海外展開や食品スーパー事業への参入など、事業多角化を進めています。
まとめ
ポイント
- 短期:見送り
- スイング~中期:見送り
- 長期:検討
- 配当目的:見送り
基本的には今の段階では手を出しずらい状況です。
まだまだ下落する可能性はありますし、様々な問題点・改善点があり、次回の決算で劇的な改善がみられるとは思いません。
これらを解決するにはかなりの時間が必要で、長期的な視点が必要でしょう。
短期~中期では見送りますが、長期のトレードであれば、まだまだ成長の余地があるのでチャートを見ながら買いを検討します。
配当利回りは低いので、高配当を狙うのであれば他の銘柄を見たほうがいいでしょう。
参考:
- https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC126H60S4A710C2000000/
- https://www.ryutsuu.biz/accounts/q100917.html
- https://media.paypay-sec.co.jp/cat2/mj241010_1
- https://www.ryutsuu.biz/strategy/q022117.html
- https://news.yahoo.co.jp/articles/f2f9df208495cf75f073c5e9bedd07fc63f104c5