

総還元性向は、ある期に企業が株主へどれだけ利益を戻したかを示す比率です。
分子は配当総額+自社株買い(自己株式取得)の金額、分母は親会社株主に帰属する当期純利益(連結)が基本。
配当性向よりも、買い戻しを含む総合的な還元を測れます。
30秒で要点|定義・式・読み方
- 定義:総還元性向=(配当総額+自己株式取得額)÷ 親会社株主に帰属する当期純利益 ×100%。
- 読み方:高いほど「その期の利益を株主へ戻す度合い」が大きい。単年ではなく数年平均で見るのがコツ。
- 注意:会社ごとに定義差(取得額の範囲、発行との差引(ネット)表記等)がある。注記を確認。
ひとことで言うと|「利益をどれだけ株主に戻したか」
配当は継続性、自社株買いは機動性が高い還元です。
総還元性向はこの2つを合算し、期の還元実績を一つの数字で捉えます。


計算式と見方|分子・分母・定義差のチェック
標準の式
総還元性向=(配当総額+自己株式取得額)÷ 親会社株主に帰属する当期純利益 ×100%。
分子の内訳
- 配当総額:当期に支払った現金配当の総額。
- 自己株式取得額:当期に実行した取得額(グロス)が一般的。ただし一部はネット(発行や株式報酬による増加分を差し引き)で開示。
※自己株式は「取得」後に消却の有無で発行株式数への効きが異なります。実行額と併せてIR注記を確認しましょう。
分母と表示
- 分母は原則連結ベースの親会社株主に帰属する当期純利益を使用。
※当期純利益は一時的損益で振れやすい場合があり、会社によっては調整後(ノンGAAP)純利益で方針を示すことがあります。
キャッシュの裏付け(参考)
持続性を見るには、現金ベースの「還元額 ÷ FCF」や「還元額 ÷ 営業CF」を補助的に使うと、無理のない還元かを判断しやすい。
例題で計算|単年と数年平均での見方
単年(例)
- 純利益100、配当30、自己株取得20 → 総還元性向=(30+20)÷100=50%。
- 純利益60、配当20、自己株取得50 → =(20+50)÷60=116.7%(一時的に高い。翌期の持続性は要確認)。
数年平均(例)
3年合算で(配当+買い戻し)総額と純利益総額を比べると、特殊要因の影響を均せます。


目安と使い方|方針・持続性・一株価値
会社の方針を起点に
- 配当性向○%+機動的な自社株買い、または総還元性向○%という形で方針が開示されることが多い。
補足:DOE(株主資本配当率)は配当を株主資本で管理する指標、総還元性向は配当+買い戻しの実行度合いを見る指標です。
持続性の見極め
- 総還元額がFCFで無理なく賄えるかを確認(借入や資産売却頼みになっていないか)。
一株価値との関係
- 自社株買いは発行株式数を減らし、EPSや1株当たり配当の押し上げにつながる。一方で、株価が割高な局面での買い戻しは効率が落ちる可能性。
配当性向との違い|いつどちらを使う?
配当性向
配当総額÷純利益。継続性の指標として使いやすい。
総還元性向
配当+買い戻しで、その期の総合的な還元を評価。機動的な買い戻しまで含めて把握したい時に有効。
よくある勘違いベスト7|ここだけは外さない
- 「高ければ常に良い」と思い込む(成長投資・財務体質とのバランスを確認)。
- 買い戻し=常に株主価値向上と誤解(割高時の取得は効率低下)。
- 取得額のグロス/ネットの違いを見落とす(発行・株式報酬で相殺される場合あり)。
- 単年の数字だけで判断(数年平均とFCFで裏付け)。
- 連結と単体の混同(原則連結で評価)。
- 分母の一時要因を無視(特別損益で振れる。調整後純利益の扱いを確認)。
- 定義を確認せず他社と比較(会社ごとの注記・方針を読む)。
データの取り方|どこを見れば拾える?
分子(配当・買い戻し)
- 配当総額:決算短信・有価証券報告書の配当情報、または「1株配当×期末発行株式数(自己株除く)」で概算。
- 自己株式取得額:IRのリリース・短信に月次/累計で開示されることが多い。
分母(純利益)
- 連結損益計算書の親会社株主に帰属する当期純利益を使用。必要に応じて会社公表の調整後純利益も確認。
補助指標
- キャッシュの裏付けに、営業CF/FCFも併読(還元の持続性チェック)。
ケーススタディ|パターンで読み解く
パターンA:利益は横ばい、総還元性向↑
買い戻し強化で還元を拡大。
株式数の減少ペースとFCFの範囲内かを確認。
パターンB:利益↑、総還元性向→
還元方針を維持しつつ成長投資を優先。
DOEや中期計画の方針をチェック。
パターンC:単年100%超
特別配当/大型買い戻しの可能性。
持続性や翌期の方針、資金調達の有無を注記で確認。
まとめ|今日から使う着眼点
ポイント
- 総還元性向=(配当+買い戻し)÷ 純利益。定義差(グロス/ネット・調整後純利益等)は注記で確認。
- 単年ではなく数年平均+FCFの裏付けで持続性を評価。
- 配当性向と使い分け。機動的な買い戻しまで把握したいときに総還元性向を見る。


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