

ROIC(投下資本利益率)は、事業に使っているお金がどれだけ効率よく利益に変わったかを示す指標です。
この記事では「定義→使い方→注意点」をやさしく整理し、ROE・ROAとの違いもコンパクトにまとめます。
まずは全体像からつかんでいきましょう。
ROICとは?意味と基本
定義(まずここだけ)
ROIC(%)= 税引後営業利益(NOPAT) ÷ 投下資本 × 100。
NOPATは「営業利益×(1−税率)」で近似できます。
投下資本は実務で(有利子負債+株主資本)−余剰現金−無利息負債の“ネット定義”を用いることもあります(分析内で定義は統一)。
👉 ROA を先に押さえると、全体効率との比較がスムーズです。
使い方の入口
最初はシンプルに「ROICが資本コスト(WACC)を持続的に上回っているか」をチェック。
単年の数字で決めつけず、過去の推移と同業比較も並べると立体的に見えてきます。

計算式の分解とROE・ROAとの違い
分解して考える(改善の勘所)
ROIC=NOPATマージン×投下資本回転率。
数式にすると、
ROIC=(NOPAT/売上高)×(売上高/投下資本)。
利益率を上げるのか、回転率を高めるのか——どちらを先に動かすかが見えてきます。
ROE・ROAとの違い(ざっくり)
ROE=当期純利益÷自己資本。
株主視点のリターンで、レバレッジの影響を受けやすい指標。
ROA=当期純利益÷総資産。
保有資産全体の効率を見る広角レンズ。
ROICは本業の利益(NOPAT)と事業に使う資本を対応させ、資本構成の差に左右されにくいのが特長です。
👉 評価の軸を増やすなら PBR もチェック。

なぜ注目される?WACCとの関係
価値創出の分かれ目
評価はシンプル。ROIC>WACCが続けば価値創出に前向き、ROIC<WACCが続くなら注意が必要です。
まずは自社のWACCを把握し、ROICが継続的に上回れているかを点検しましょう。
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例:負債コスト(税後)2%・株主資本コスト8%・負債40%/自己資本60%なら、
WACC=2%×0.4+8%×0.6=5.6%。
このラインを安定して超えられるかがひとつの目安になります。
👉 利回り視点を足すなら 配当利回り。

目安の考え方と業界差
一般的な見方(断定しない)
第一関門は「資本コストを上回れているか」。
一桁後半〜二桁台をひとつの目安とする見方もありますが、業種・成長段階で適正水準は変わります。
必ず、同業比較と自社の過去推移を並べて判断しましょう。
業界ごとのクセ(例)
- 設備集約(公益・重工):資産が重くROICは低めに出やすい。安定性が焦点。
- 無形資産中心(IT・ソフト):固定資産が軽く回転率が出やすい。差別化の持続性を吟味。
- 小売・流通:在庫回転と与信設計で数値が大きく変動。運転資本のコントロールが要所。
👉 資産ベースで比較するなら PSR。

実務での使い方(改善・管理・落とし穴)
改善の方向性(分解を活かす)
- 価格戦略・製品ミックス・コスト最適化でNOPATマージンを底上げする。
- 在庫・与信・固定資産の見直しで投下資本回転率を高める。
- 遊休資産の圧縮や撤退基準の明確化で資本の滞留を防ぐ。
運用チェックリスト
- 定義統一:投下資本・NOPATの定義をドキュメント化(社内外でぶれをなくす)。
- 周期設定:四半期/年度でROICを定点観測、要因分解テンプレを固定。
- 門番KPI:利益率KPIと回転率KPIを各部門に割当て、ボトルネックを見える化。
- 一過性の扱い:特損・特益・在庫評価替えは別表で明示し、平常時水準も併記。
- 資本配分:成長投資・維持投資・株主還元の配分ルールを年初に決めて運用。
ミニFAQ
Q. ROICとROIは同じ?
A. ROIは広い意味の投資収益率。
ROICは事業で使う資本に対する本業利益(NOPAT)の比率で、管理指標としてより厳密です。
Q. 現金を多く持つ企業はROICが見劣りする?
A. “ネット定義”で余剰現金を差し引けば、本業に使う資本効率を素直に比較できます。
👉 EPS と組み合わせると、利益の質まで見通せます。
まとめ
ポイント
- ROIC=NOPAT÷投下資本×100。定義をそろえて比較すると判断が安定します。
- 評価はWACCとの関係が基本。単年ではなく、推移と同業比較で厚みを出しましょう。
- 改善は「利益率×回転率」の二軸。短期最適に偏らず、持続性を意識するのがコツ。

