

企業の経営効率や収益性を測る上で、近年ますます注目を集めている指標がROE(自己資本利益率)です。
ROEは「Return on Equity」の略で、企業が株主から預かった自己資本を使い、どれだけ効率よく利益を生み出しているかを示します。
単なる利益の大きさではなく、株主の資金をどれだけ有効活用できているかを客観的に評価できるのが特徴です。

計算式は「純利益÷自己資本×100」とシンプルですが、企業の稼ぐ力や経営の巧拙を比較するうえで強力なツールとなります。
たとえば、同じ業界の複数企業を比べる場合、ROEが高い企業は「株主のお金をより効率的に利益へ変えている」と判断されやすいです。
一方で、ROEの高さには利益率の向上やコスト削減、財務レバレッジの活用など、さまざまな要因が影響します。
また、ROEだけでなくROA(総資産利益率)やROIC(投下資本利益率)など、他の指標と組み合わせて総合的に分析することも重要です。
一時的な要因や過度な負債によるROEの上昇には注意が必要であり、経営の持続性や健全性も見極めなければなりません。

ポイント
- ROEは企業が株主資本を使ってどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標である
- ROEの計算式は「純利益÷自己資本×100」で、10%以上が優良企業の目安となる
- ROEが高い理由には利益率の向上やコスト削減、財務レバレッジの活用などがある
- ROEだけでなくROAやROICなど他の指標も組み合わせて総合的に分析することが重要である
- 一時的な要因や過度な負債によるROE上昇には注意し、経営の持続性や健全性も確認する必要がある
ROEとは?わかりやすく基礎から解説
この章ではROEについて解説します。
ROE(自己資本利益率)の意味
ROEとは「Return on Equity」の略称です。
日本語では「自己資本利益率」と呼ばれます。
企業が株主から預かったお金(自己資本)を使い、どれだけ効率よく利益を生み出しているかを示す指標です。
計算式は「純利益 ÷ 自己資本 × 100」で表され、パーセンテージで示されます。
たとえば、純利益が1,000万円、自己資本が5,000万円の会社ならROEは20%。
この数字は「株主が投資した1円あたり、1年間で0.2円の利益を生み出している」ことを意味します。
ROEは企業の収益性や経営効率を測るうえで、投資家や経営者がよく使う指標のひとつです。
単なる利益の大きさだけでなく、「株主の資金をどれだけ上手に使っているか」がわかる点が特徴です。
同じ利益でも、自己資本が少ないほどROEは高くなります。
経営の巧拙や資本の使い方を評価する際にも役立つ指標といえるでしょう。
なぜROEが注目されるのか
ROEが重視される理由は、企業の「資本効率」を客観的に比較できる点にあります。
たとえば、同じ業界の中で複数の企業を比べる場合、ROEが高い会社は「株主のお金をより効率的に利益へ変えている」と判断できます。
実際、投資家はROEを使って投資先を選ぶことが多いです。
また、経営者もROEを意識して経営改善や資本政策を考えるケースが増えています。
世界的に見ると、アメリカやヨーロッパの上場企業ではROEが10~15%以上あれば優良とされることが多いです。
一方、日本企業は平均的にROEが低めで、これが「資本効率の悪さ」として課題視されてきました。
最近は日本でもROE向上を目指す動きが活発化しています。
ROEは利益率だけでなく、資本構成や経営戦略の違いも反映されるため、企業の「稼ぐ力」を多面的に評価できるのが特徴です。
ROEが示す企業の経営効率
ROEの数字が高いほど、企業は株主資本を効率的に使って利益を生み出しているといえます。
たとえば、IT企業やブランド力の高い企業は、少ない資本で大きな利益を上げやすいです。
そのため、ROEが高く出る傾向があります。
逆に、インフラや電力など設備投資が多い業種はROEが低くなりがちです。
また、ROEは単なる「利益÷資本」ではなく、経営の工夫やリスクの取り方も反映されます。
たとえば、借入金を増やして自己資本を減らすと、ROEが一時的に高くなることもあるのです。
そのため、ROEが高いからといって必ずしも経営が健全とは限りません。
ROEを見るときは、利益の安定性や業種平均との比較、過去との推移もチェックすることが大切です。
ROEは「企業の経営効率」を測る便利な物差しです。
他の指標と組み合わせて総合的に判断することが重要となります。

ROEの計算方法と目安を初心者向けに説明
この章ではROEの計算方法と目安について解説します。
ROEの計算式と具体例
ROE(自己資本利益率)は、「企業が株主から預かったお金をどれだけ効率よく利益に変えているか」を表す指標です。
計算式はとてもシンプル。
ROE = 純利益 ÷ 自己資本(株主資本)という形になります。
たとえば、ある会社の1年間の純利益が300万円、自己資本が1,500万円だとします。
この場合、ROEは「300万円 ÷ 1,500万円=0.2(20%)」となる計算。
つまり、株主が出したお金1万円につき、1年間で2,000円の純利益を生み出したことを意味します。
ROEは企業の「稼ぐ力」を比較するうえで便利な指標といえるでしょう。
自己資本は期首と期末の平均値を使うと、より正確な数値を出せます。
また、ROEが高い理由には「利益が大きい」「自己資本が少ない」など複数の要因が挙げられます。
単純な数字だけで判断しないことも重要となるでしょう。
ROEの「良い・悪い」の目安
ROEが高いほど、株主資本を効率的に使って利益を上げていると評価されます。
一般的には「10%以上」で優良企業、「15~20%」なら非常に高い水準とされることが多いです。
ただし、業種や国によって平均値が異なるため、同業他社や市場全体と比較することが大切となります。
たとえば、米国の上場企業全体の平均ROEは約16%前後、日本企業は8~10%程度が多い傾向。
ROEが高すぎる場合は、自己資本が極端に少ない(借入金が多い)ケースもあり、リスクが高まることもあります。
逆に、ROEが低い企業は資本効率が悪いと見なされ、投資家からの評価が下がりやすい傾向です。
目安としては、
- 8%未満:改善が必要
- 8~15%:平均的
- 15%以上:優良
といった基準が参考になるでしょう。

ROEが高い企業の特徴と注意点
この章ではROEが高い企業の特徴と注意点について解説します。
ROEが高くなる主な要因
ROE(自己資本利益率)が高い企業にはいくつかの共通した要因が見られます。
まず、事業の成長や新規分野への進出で純利益が伸びている場合が挙げられるでしょう。
たとえば、既存ビジネスが好調で売上が増加したり、M&Aで事業規模を拡大した結果、利益が押し上げられるケースも多いです。
また、コスト削減による利益増加もROE向上の一因となります。
無駄な経費を削減し、効率的な経営を実現することで純利益が増える流れ。
ただし、コスト削減の効果は一時的な場合もあり、持続的な成長には限界がある点に注意が必要です。
さらに、資本の効率的な運用も重要なポイントです。
遊休資産の売却や不要な資産の圧縮によって、自己資本を適正な水準に保つ企業もROEが高くなりやすい傾向が見られます。
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利益率の向上
利益率の向上はROEを高める代表的な手段です。
たとえば、商品やサービスの価格を上げたり、付加価値を高めて他社との差別化を図ることで、売上高に対する利益の割合が増加します。
また、顧客単価を上げる取り組みや、新規顧客の獲得、リピーターの増加も利益率向上に直結します。
コスト削減も有効ですが、単なる経費削減ではなく、効率的な投資や業務プロセスの見直しによる持続的な利益率アップが理想です。
このような取り組みで純利益が増えれば、ROEも自然と高まる流れとなります。
財務レバレッジの活用
財務レバレッジとは、自己資本に対して他人資本(負債)を活用することで資本効率を高める手法です。
たとえば、銀行からの借入や社債発行で調達した資金を使い、事業投資や設備拡大を行うことで、自己資本あたりの利益を増やすことが可能です。
実際、自己資本が1億円の企業が4億円を借り入れて事業を拡大した場合、利益が同じ割合で増えればROEは大きく上昇します。
ただし、負債が増えるほど返済リスクや財務負担も大きくなるため、過度なレバレッジには注意が必要となるでしょう。
ROEだけで判断してはいけない理由
ROEは企業の収益性や資本効率を示す重要な指標ですが、これだけで企業の健全性や将来性を判断するのは危険といえるでしょう。
なぜなら、ROEは一時的な要因や財務レバレッジの活用によっても簡単に数値が上昇するからです。
たとえば、負債を増やして自己資本を減らせば、利益が変わらなくてもROEは高くなります。
また、特別利益や自社株買いによる自己資本圧縮も一時的にROEを押し上げる要因です。
経営の本質的な改善とは言えないケースも多いです。
そのため、ROEを見る際は、ROA(総資産利益率)や負債比率、業種平均など他の指標と組み合わせて多角的に分析することが欠かせません。
一時的な要因によるROE上昇
ROEが急上昇している場合、その背景に一時的な要因が隠れていることもあります。
たとえば、不要資産の売却による特別利益や、為替差益、臨時的なコスト削減などが該当。
こうした利益は継続性がなく、翌期以降に元に戻るケースが多いため、ROEの高さだけで企業価値を判断すると誤った投資判断につながります。
また、経営者が短期的な目標達成のために一時的な施策を取ることもあるため、過去数年分のROE推移や利益の内訳も必ず確認したいところです。
リスクや副作用
財務レバレッジを活用してROEを高める場合、負債が増えることで倒産リスクや財務負担が大きくなる傾向があります。
過度な借入は、景気悪化や金利上昇時に資金繰りの悪化を招きかねません。
また、自社株買いによる自己資本圧縮も、手元資金が減ることで将来の成長投資や研究開発が制限されるリスクがあるでしょう。
ROEの数値だけを追い求めるのではなく、経営の持続性や健全性にも目を向けることが大切です。

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ROEと他の指標(ROA・ROIC)の違いをわかりやすく比較
この章ではROEと他の指標(ROA・ROIC)の違いについて解説します。
ROA(総資産利益率)との違い
ROE(自己資本利益率)は「株主が出資したお金でどれだけ利益を生み出したか」を示す指標です。
一方、ROA(総資産利益率)は「会社が持つすべての資産を使って、どれだけ利益を生み出したか」を見る指標です。
ROEの計算式は「純利益 ÷ 株主資本」、ROAは「純利益 ÷ 総資産」となります。
たとえば、同じ利益でも借入金(負債)が多い会社は、株主資本が少なくなりROEが高くなりやすい傾向があります。
しかし、ROAは資産全体で計算するため、借入金の多さによる影響が小さくなるのです。
つまり、ROEは「株主の立場」、ROAは「会社全体の効率」を見るイメージです。
資産を有効に使えているかを知りたい場合はROAが役立ちます。
たとえば、資産規模が大きいけれど利益が少ない企業はROAが低くなる。
一方、自己資本が少なくても利益が出ていればROEは高くなる特徴があります。
ROEだけでなくROAも合わせて見ることで、会社の財務構造や経営効率をより正確に把握できるでしょう。
ROIC(投下資本利益率)との違い
ROIC(投下資本利益率)は「会社が調達したすべての資本(株主資本+負債)を使って、どれだけ利益を生み出したか」を示す指標です。
計算式は「NOPAT(税引後営業利益)÷ 投下資本(株主資本+有利子負債など)」です。
ROEやROAが株主や全体の資産に対する効率を見るのに対し、ROICは「株主と債権者の両方」にとってのリターンを測ります。
たとえば、借入金を多く使ってROEを高く見せることは可能ですが、ROICは負債も含めて計算するため、そのような“見せかけ”が通用しません。
ROICは、企業がどれだけ効率的に資本を運用し、投資家全体に利益をもたらしているかを判断するのに適しています。
また、ROICを「資本コスト(WACC)」と比べることで、企業が本当に価値を生み出しているかもチェック可能です。
たとえば、ROICがWACCを上回っていれば、企業は投資家の期待以上のリターンを出していることになります。
ROICは、特に資本構成が異なる企業同士を比較したいときや、長期的な企業価値の評価に役立つ指標といえるでしょう。
ROE・ROA・ROICの使い分け方
ROE、ROA、ROICはそれぞれ見る視点が異なるため、目的に応じて使い分けることが重要です。
ROEは「株主の視点」で、自己資本の効率を重視したいときに使用します。
銀行や保険会社など、自己資本の比率が重要な業界で特に有効。
ROAは「会社全体の視点」で、資産をどれだけ有効活用しているかを知りたい場合に便利。
資産規模が大きい企業や、資産の使い方を比較したいときに適しています。
ROICは「投資家全体の視点」で、企業が調達したすべての資本に対してどれだけ効率的に利益を生み出しているかを測る指標。
資本構成が異なる企業同士や、長期的な企業価値を比較したいときに役立ちます。
たとえば、同じ業界内であればROEやROAで比較しやすいですが、資本構成が大きく違う場合や、企業価値そのものを評価したい場合はROICがより信頼できる指標となります。
実際の投資判断や経営分析では、これらの指標を組み合わせて総合的に判断することがベストです。

ROEを投資や経営判断に活かすポイント
この章ではROEを投資や経営判断に活かすポイントについて解説します。
投資家がROEを見るときのチェックポイント
ROEは投資家にとって、企業が株主資本をどれだけ効率よく利益に変えているかを示す重要な指標です。
まず注目すべきは、同業他社と比較した際のROEの水準です。
同じ業界内でROEが高い企業は、資本効率や収益性が優れていると評価されます。
また、過去数年分のROEの推移も確認しましょう。
安定して高いROEを維持している企業は、経営力や事業モデルがしっかりしている場合が多いです。
一方、急激にROEが上昇している場合は、利益の一時増加や自己資本の圧縮(自社株買いなど)が影響していないかもチェックが必要となります。
ROEが高いだけでなく、財務の健全性や成長性、業界動向も総合的に判断することが大切です。
たとえば、ROEが10%以上で安定している企業は、投資先として魅力的とされる傾向が強いです。
ただし、負債の増加による一時的なROE上昇には注意しましょう。
ROEは単独で判断せず、他の財務指標や企業のビジネスモデルとあわせて分析することがリスク回避につながる。
経営者がROEを改善するための施策
経営者がROEを高めるには、利益率の向上と資本効率の改善が基本です。
まず利益率を上げるためには、価格戦略の見直しやコスト削減、売上拡大などが有効となります。
例えば、製造コストの見直しや業務の自動化で経費を減らすことが利益率向上につながります。
次に、自己資本を効率的に運用するための資本政策も重要です。
自社株買いや増配などで自己資本を適正な水準に調整することで、ROEを高めることが可能です。
ただし、短期的なROE向上だけを目指して自己資本を減らしすぎると、財務リスクが高まるため注意が必要。
中長期的には、高付加価値分野への事業シフトや新技術の導入、人的資本への投資といった成長戦略もROE改善に直結します。
また、ROEの構成要素(利益率・資産回転率・財務レバレッジ)ごとにKPIを設定し、部門別に管理することで、全社的な収益性向上を目指せるでしょう。
ROEと他の指標を組み合わせた企業分析方法
ROEは「株主資本に対する利益効率」を示しますが、これだけで企業の全体像を把握するのは難しいです。
ROA(総資産利益率)は、企業が持つすべての資産をどれだけ効率的に利益に結びつけているかを示す指標。
たとえば、ROEが高くROAが低い場合、企業が借入金(負債)を多く使っている可能性が考えられます。
逆に、ROAも高ければ、資産全体を有効活用している優良企業といえるでしょう。
さらにROIC(投下資本利益率)は、株主資本だけでなく有利子負債も含めた全体の資本効率を測る指標となります。
ROE・ROA・ROICを組み合わせて分析することで、企業の収益性・効率性・安全性を多角的に評価可能です。
業界ごとに指標の目安が異なるため、必ず同業他社や過去の推移と比較することが重要です。

まとめ
ポイント
- ROEは企業が株主資本を使ってどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標である
- ROEの計算式は「純利益÷自己資本×100」で、10%以上が優良企業の目安となる
- ROEが高い理由には利益率の向上やコスト削減、財務レバレッジの活用などがある
- ROEだけでなくROAやROICなど他の指標も組み合わせて総合的に分析することが重要である
- 一時的な要因や過度な負債によるROE上昇には注意し、経営の持続性や健全性も確認する必要がある
今回はROEについて説明してきました。
株を購入するときに様々な判断材料となる指標がありますが、どれも万能なものではありません。
今見ている数値だけを信じるのではなく、過去の数値や現在の状況、他の指標も見て総合的に判断することが重要になってきます。
初心者はなかなか難しく感じると思いますが、少しずつ勉強していきましょう。


参考: